■ 第一代会長挨拶

近年ケミカルバイオロジー研究の重要性が唱えられています。薬理系、生物系、有機系、医学系など全く異なる領域で注目され、それぞれでシンポジウムが開催され、学術雑誌で特集号も数多く組まれるようになっています。

このように多くの科学者の関心を集めながら、日本のみならず、世界的にもケミカルバイオロジーそのものを冠した学術団体、組織は今までありませんでした。これは、おそらくは融合領域と呼ばれるケミカルバイオロジーを研究会として組織するためには、分野の全く異なる科学者が対等の立場で協力し合わねばならず、これを実際に行うのは極めて難しい事に起因しているとおもわれます。お互いの興味もずれており、実験手法も違う。まるで異なる文化を一つに融合する作業に等しいのです。このような困難があるにもかかわらず、私たちは有志を集め、一昨年、日本ケミカルバイオロジー研究会を立ち上げました。世界で初めての学術団体であり、それも一人の科学者が小さな会を起こしたのではなく、薬学、医学、農学など幅広い分野の研究者が一堂に会して、まさに異なる分野の研究者が対等の立場で立ち上げたのです。これは画期的なことと言えるでしょう。

さて、実は日本においては、ケミカルバイオロジーの言葉は使用しなかったが、その概念に相当する研究は古くから行われて来ました。例えば、私の所属する薬学においては創薬の基礎研究として合成リガンドとタンパク質の相互作用、リガンドの合成技術、生薬を含む天然物化学、薬理学等、外国には見られない融合的な研究が昔から行われていたのです。ただ、それらを大きく展開するための周辺の研究基盤が整っていなかったこともあり、一部の研究を除きそれほど注目されることはありませんでした。近年になって、ヒトゲノムの解析、タンパク質の構造生物学の進展など、創薬研究を含む生体分子の機能を制御できる化合物を論理的に創出できる基盤が整い、この分野にスポットライトが当たり始めたのです。諸外国に比べ、日本では日本化学会の「生体機能関連化学部会」の盛況に見られるように、このような研究は極めて得意な領域であり、しっかりした研究基盤が構築できれば間違いなく世界のリーダーになれるものと思われます。

この日本ケミカルバイオロジー研究会が、各種シンポジウムの開催やNewsLetterの配信により分野間の交流を深め、日本でのケミカルバイオロジー研究進展の起爆剤になるものと確信しています。この分野の更なる発展のため、会員の皆様のご協力と率直なご意見、あるいは新しい提案を戴くことを期待しております。

日本ケミカルバイオロジー学会会長 長野 哲雄
追記:
日本ケミカルバイオロジー研究会は定例の年会を毎年5月に開催しており、今年(2008年)で第3回となりました。参加者は年々増加し、研究発表のレベルも著しく向上し年会は毎回大盛況となっております。そのため「研究会」の枠には収まらず、「学会」として更に発展していくべきであるとの意見が多くの会員から寄せられるようになってきました。この声に応えて、この件を議題として2008年度の世話人会及び総会で諮った結果、「日本ケミカルバイオロジー学会」として新たに出発することが承認されました。「学会」として更に飛躍するためにも、皆様の更なるご支援をお願いする次第です。どうぞよろしくお願い申し上げます。